事例報告:平成元年生まれ・二次感染・塩基配列検査で判定不能のケース
このたび,二次感染で,昭和61年以降の生まれの方で,塩基配列検査で母子感染の判定が不能だったというケースで和解が認められました。
厚生労働省の手引きによれば,①出生直後に感染していたことを示す証拠がなく,②HBV分子系統解析検査で母と子のウイルスの塩基配列を比較して感染の因果関係ありとの結果がない場合には,③母子感染以外の感染原因が認められないことを証明する方法による立証が認められています。ただし,その場合は,昭和60年12月31日以前に出生していることという条件が付いています。
依頼者の方は,平成元年生まれですが,母親とウイルスの塩基配列比較検査では,「判定不能」となっておりました。昭和61年以降は,母子感染防止の施策が実施されたことから,母子感染の可能性が低いので,上記③の方法による証明が認められていません。
その場合,①の出生直後に感染していたことを示す証拠がない場合は,証明方法がないことになってしまいます。
医療記録の保存期間は5年とされていることから,ご依頼者の生まれた当時のカルテが残っているケースは極めて稀です。この方の場合も,全く残っていませんでした。
母親の記憶によると,出生後にワクチンを打ったが,間に合わず,赤ちゃんが感染したと告げられたということをはっきりと覚えておられたので,母子感染であることは間違いありません。
救済されるべき方であることは間違いないので,なんとかならないか,必死で考えました。
詳細は個人情報が絡んできますので書けませんが,諦めず頑張った結果,国も和解に応じてくれて本当によかったです。
この方以外にも,二次感染で,昭和61年以降の生まれの方で,塩基配列検査で母子感染の判定が不能だったというケースで,ほかの事務所で断られたという方のお問い合わせを受けたこともあります。そのときは,まだ和解までたどり着いた事例がなかったので,「立証を工夫すれば,可能性はあると思いますがまだ和解例がありません」とお答えしましたが,今回,和解ができましたので,このブログでご報告いたします。
なお,塩基配列検査で母子感染の判定不能が出たというだけで,ほかの事務所で無理と言われたという方からも問い合わせを受けたことがありますが,その方は,昭和60年12月31日以前の生まれでしたので,「カルテを集めたりちょっと面倒ですが,立証は難しくありませんとお答えしています。」(弁護士 澤田有紀)